DXアプローチ事例 ①
この事例のポイントは3点あります。
1点目のポイントは、武器と知恵を集結したCoE(Center of Excellence/組織を横断する取り組みを行う中核部署や研究拠点)の構築です。
元々、データ分析による課題解決に特化した組織を組成していたのですが、さらに、そこに全社DX推進の機能を持たせ、資金や人材、知見およびデータを集めています。
2点目のポイントは、事業部門からの課題と若手の伝道師の誘引です。
全社的な経営課題とある程度合致する現場の課題を現場から提唱してもらうことに加え、現場の若手を中心に将来を担うことができるポテンシャル人材をCoEに参加させ、DX案件に取り組んでもらうことをしています。
これによって、経営と現場の課題感のすり合わせをしながら解決策を見出すことと、人材の育成とを両立しています。
現場から来た人材はいずれ現場に戻ることになるため、現場のDX機運を高める伝道師の役割を担っていく仕組みです。
3点目は、ベストプラクティスのソリューション化です。グループ内で作ったノウハウについて他社への外販を志向する形となっています。
この事例では、契約の解約予測への取り組みから始まり、直近では顧客体験を抜本的に改革する取り組みも行われています。
経営の視点では、CoEの中でのさまざまな取り組みを通して、顧客体験の変革と企業文化の変革を進めようという機運作りが達成されています。
事業部門の視点からは、経営課題や経営の方向性との整合を取りつつ、現場の課題と一部の人材をCoEに持ち込むようになることで、資金や知見など本部の資源をうまく活用しながら現場課題の解決を図ることができるようになったと言われています。
このように、CoEを頼るメカニズムを作ることで、効果的に改革を進めることができていると言えます。
本件は、かなり進んだ事例です。成果を出したことによって一気にスケールしており、当初は数十人規模の取り組みとして始まりましたが、数年を経た今では数百人単位の組織になっています。
営業部門についても今までの仕事のやり方を根本的に変えるほど、かなり踏み込んだ改革をしています。今でこそアセットの取扱いや外販の拡大について検討していますが、当初は社内改革から始まりました。先進事例として、注目する価値があると言えます。
DXアプローチの事例 ②
本事例の企業では組織内の3ヶ所にDXの推進機能が作られていました。
1ヶ所目はマネジメント直下にある組織で、コスト削減を目的としたRPA(Robotic Process Automation/仮想知的労働者による事業プロセス自動化技術)による業務変革で、業務時間の捻出に取り組んでいます。
2ヶ所目がイノベーション部署です。DXの推進機能として最初に立ち上げた組織で、新しいビジネスモデル構築や既存事業の事業モデルの変革を目的としています。
3ヶ所目が部門内のデジタルチームです。既存の事業部門の中でのデジタル型の人材の雇用や、業務改革を目的としています。
経営主導の業務変革については、現場部門も巻き込みながら分かりやすい成果を出して、成功しています。実際の取り組み内容としては、予算や外部人材を含む経営リソースを確保しつつ、各現場部門の課題をCoEに持ち込ませ、その課題と経営・業務変革CoEが保有するソリューション解決策と突き合わせることで、現場の改革効果を産んでいます。
結果的として、少なくない業務時間を創出しています。これを順に広げると同時に、外販を志向した会社を設立してソリューションを提供するところにまで至っています。
イノベーション部署でも同様に、経営資源として一定規模の予算を付与されるとともに、社内外から多様な人材を集めて取り組みを進めています。
しかし、新ビジネスモデルへの転換や企画ができあがっても、実装しようとした際に現場部門との業務の重複などの軋轢が生まれ、現場を上手に巻き込んだ取り組みができませんでした。
そこで直近では、既存のビジネスから少し離れた部分で、新しいタイプのビジネスを作るところにフォーカスして存在感を出そうと試行錯誤しているところです。
リテール部門内デジタルチームは、部門の課題について、部門の資金を用いて新しいケイパビリティを創出し解決していこうと動いています。具体的は、CX(Customer Experience/顧客体験)やUX(User Experience/ユーザー体験)に着眼し、既存のアプリや店舗サービスを改善することにより、現業の中での成果を順次創出しています。しかし、部門での取り組みですので、全社的なDXにまでは至っていません。
本事例の取り組みは、全社的な統一感という観点から、完全な成功事例とは言い切れません。経営層の決意や後押しがもう少し欲しいところです。
その一方で、まだDXが世に浸透していない時代、明確な利点も見えない中で、経営者が舵を切って進めることで、成果を挙げたことに意義があると言えるでしょう。
Vol .6 他社のDXアプローチ(CoEの役割と人材育成)② に続きます。