












- 契約書チェックは法的リスク回避に不可欠だが、業務負荷が非常に高い
- そうした課題を解決するため、チェックリストを参照して契約書における条項の網羅性と内容の妥当性をチェックするAIを開発
- プロンプト設計を工夫して出力の安定性を確保し、タスクを細かく分割して大規模言語モデル(Large Language Models、以下、LLM)に処理させることで、検証のしやすさを向上
- 今後は、さらなる精度向上と他の文書業務への応用を目指す
契約書チェックエージェント開発の意義
契約書の内容に抜け漏れや不備がないかを確認する作業は、企業活動において法的リスクを回避するために欠かせない重要な業務です。しかしその一方で、契約書の文量や複雑さ、チェック項目の多さから、担当者には膨大な時間と集中力が求められ、業務負荷が非常に高いという課題があります。
このような状況を踏まえ、私たちは契約書チェック業務の効率化を目指し、AI技術を活用した自動化の取り組みとして、契約書チェック専用のAIエージェントの開発に着手しました。人手による確認作業の一部をAIに置き換えることで、業務のスピードと精度を両立させ、担当者がより付加価値の高い業務に集中できる環境の構築を目指しています。
契約書チェック業務の概要と今回のフォーカス
担当者へのヒアリングを通じて、現行業務において契約書をどのような観点でチェックしているかを整理した結果、以下の4つの観点が挙げられました。
① 新規契約書が過去の契約書と矛盾していないか
② 契約書が最新の法令や規制に準拠しているか
③ 必要な契約条項がすべて記載されているか
④ 一方の当事者にとって過剰に有利または不利な内容になっていないか
これらはいずれも作業負荷が高く、AIによる効率化が期待される領域です。今回はこの中でも「③ 必要な契約条項がすべて記載されているか」にフォーカスして取り組みました。
AIを用いた契約書チェック方法
本取り組みでは、まず人の手で契約書をチェックするためのチェックリストを作成します。その後、作成したチェックリストをもとに、以下の処理をAIに実施させます。
① 契約書に、チェックリスト記載の必要条項がすべて含まれているかの確認
② 上記①で契約書内に記載があった条項について、その内容に不備がないかの検証
これにより、担当者は契約書全文を詳細に読み込むことなく、条項の抜け漏れおよび内容の不備に気づくことができ、作業負荷の軽減が可能になります。
開発過程で実感した、エージェント構築における重要ポイント
AIエージェントは新しい技術であるため、ベストプラクティスがまだ十分に確立されておらず、試行錯誤の連続でした。
その過程で、エージェント構築において重要だと感じた点をいくつか紹介します。
1. プロンプト文章の明確化、具体化
AIエージェントに「契約書に、チェックリスト記載の必要条項が含まれているか」と問いかけた際に、「Yes」「No」といった回答に加え、補足説明や曖昧な表現が混在するケースが見られました。
その結果、「Yes」「No」のいずれかしか入力として受け付けない後続処理においてエラーが発生し、出力の安定性が課題となりました。
この課題に対して、プロンプトに「『Yes』か『No』のいずれかで回答してください」と明記することで、出力を「Yes」「No」の2つに固定し、後続処理でのエラーをなくすことができました。
LLMの出力はプロンプト設計に強く依存するため、明確かつ具体的な指示を与えることが重要です。

2. 処理の構造化
LLMの出力が不適切な場合、その原因を特定することは容易ではありません。単一の大きなプロンプトで処理させると、回答の生成過程がブラックボックス化し、「どの部分の指示が影響して誤答につながったのか」「なぜそのような回答になったのか」を追跡することが困難になります。
この課題に対して、処理を以下の3段階に分割することで、各段階における出力を表示できるようにし、どの段階の回答が誤っていたかがわかるようにしました。
① チェックリスト記載の必要条項が含まれているかを判定
② ①の判定がYesの場合、該当する条項の文書を抽出
③ 抽出した文書の内容が適切かを判断
このように処理を構造化することで、各ステップの出力を個別に検証できるようになり、原因の切り分けが可能となりました。
上記のような工夫を施した結果、以下の例のようにAIが不適切な文章を正しく検出できるようになりました。
契約書本文(一部抜粋)
AIの出力(一部抜粋)
まとめ
契約書チェック業務におけるAIエージェントの導入は、法的リスクの低減と業務効率の向上を両立させる有効な手段です。本取り組みでは、チェックリストを活用したAIによる条項の網羅性と内容の妥当性の確認を通じて、担当者の作業負荷を軽減することを目指しました。開発過程では、AIエージェントの開発において単にモデルを活用するだけではなく、プロンプト設計や処理の構造化といった工夫が不可欠であることを実感しました。
今後は、さらなる精度向上と汎用性の拡張を図り、契約書チェック以外の文書業務への応用も視野に入れながら、AIエージェントの活用領域を広げていきたいと考えています。














